相続入門

相続はいつ、どこで始まる?相続の基本原則を解説!

相続っていつから始まるの?

「相続」って何?では、

を説明しました。

では、相続はいつ、どこで始まるのでしょうか?それとともに、相続人はいつ、相続人となりうるのでしょうか?

今回は、相続の始まり場所に関する基本原則、さらに相続人と被相続人の存在関係について、民法以外にも密接な関係がある戸籍法などに触れながらお話しします。

相続は、いつ「開始」する?

民法の定め

まず1つ目です。
相続は、いつ始まるのでしょうか?

相続の開始の時については、民法に定めがあります。

民法882条(相続開始の原因)

相続は、死亡によって開始する。

「相続とは何か?」で説明しましたね。これは、相続の開始の原因は、唯一、被相続人「死亡」と法的に認められた時であること、被相続人の死亡を相続人が知っていたかどうかは相続の開始に全く影響しない、ということを意味します。

つまり、死亡日時に自動的に相続します。

公的に「死亡」と認定(証明)されるには?

相続開始は死亡時って、何だ、亡くなった時か、そんなの当たり前じゃないかと思われたかもしれません。
確かに、法的には死亡時に自動的に相続しています。では、どんな時に公的に「その死亡日時に死亡した」と認められるのでしょうか?実務上、その死亡日時を法的に(公的に)できる限り確定しなければなりません

日本においては、公的に死亡が証明されるのは、戸籍に「その死亡日時に死亡した」と記載されたときからです。

ただし、戸籍による死亡日時は、証明力はありますが、あくまで「推定であり、反証によって覆すことが可能です。

戸籍法第86条

1 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。

2 届書には、次の事項を記載し、診断書又は検案書を添付しなければならない。

一 死亡の年月日時分及び場所

二 その他法務省令で定める事項

3 やむを得ない事由によつて診断書又は検案書を得ることができないときは、死亡の事実を証すべき書面を以てこれに代えることができる。この場合には、届書に診断書又は検案書を得ることができない事由を記載しなければならない。

戸籍とは?-

戸籍の記載=公的な「死亡」の証明-
戸籍は日本国民について編製され,人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するものであり、日本国籍をも公証する唯一の制度です。
(法務省ホームページ https://www.moj.go.jp/MINJI/koseki.html
 
我が国日本では、国が国民の日本国籍と生死を公的に証明(公証)するものは戸籍です。相続の開始原因である死亡は、戸籍に「死亡」と記載された時から誰に対しても証明される状態になります。それゆえ、相続に関する手続きには、ほぼ必ず戸籍が使われます。
つまり、実際の相続は、戸籍法に則り、戸籍に被相続人の「死亡」を記載してもらえて初めて前に進むことができるのです。

「死亡」と戸籍に記載されるのに必要なものは何か、そもそも、何をもって「死亡」とするのかなどにつきましては、別の機会に詳しくお話しします。ここでは、病院で亡くなった場合をイメージすれば大丈夫です。
まずは、実務上はまずは戸籍に「死亡」との記載があって初めて相続が動き出すこと、逆に言えば、「死亡」の公的証明として戸籍の記載が必要であることは覚えておきましょう。

戸籍の記載と「死亡の時」~孤独死など~

孤独死と分かる記載

通常、戸籍では、

【死亡日】令和〇年4月1日
【死亡時分】午前0時20分
【死亡地】…

と書かれています。
何らの反証もなければ、この令和〇年4月1日午前0時20分が相続開始日時とされます。

ただ、当事務所のご相談でも、必ず何年かに1回は、「家で一人で亡くなっていた」といういわゆる孤独死の事案に出会うことがあります。問題は、自然死亡ではあるけれども、いつ亡くなったかが分からないという点です。

このような場合、戸籍にはどのような記載がなされるのでしょうか?

このような場合は、一旦行政解剖などが行われるので、そこである程度の期間が回答されることも。孤独死などでは以下のような記載がなされます。

「推定令和〇年2月1日 死亡」

「令和〇年2月1日時刻不詳 死亡」

「令和〇年2月1日から10日頃までの間 死亡」

「令和〇年2月1日から10日間」

「令和〇年2月頃 死亡」

さて、皆さんはどの日が相続開始日になるかおわかりですか?

「推定令和〇年2月1日 死亡」

「推定という言葉がついていますが、具体的な日付が入っていますので、相続開始日は2月1日です。ただし、死の先後が争われる場合、時刻の記載がないことで同時死亡が適用されることがあります。

「令和〇年2月1日時刻不詳 死亡」

こちらも時刻まではわからないものの、日付は特定できている状態ですので、相続開始日は2月1日です。ただし、➀と同様に、死の先後が争われる場合、時刻の記載がないことで同時死亡が適用されることがあります。

「令和〇年2月1日から10日頃までの間 死亡」

このように何日間かのどこかの時点で亡くなった、とするならば、相続開始の時点が定まらないことになってしまいます。このような場合、どこで相続が開始するのでしょうか?

実は、実務上は、この期間の最後の日ということになっています。相続開始の日を一番前に持ってくると不利になってしまうこともあるため、死亡が確実と考えられる一番最後の日の開始時点で統一されています。

ですので、相続開始日は2月10日です。

④「令和〇年2月1日から10日間」

これも③と同じように期間の最終日です。相続開始日は2月10日となります。

「令和〇年2月頃 死亡」

日付がなく、2月「頃」というほぼ一か月の期間が与えられています。この場合も全く同じで、相続開始日は2月28日(閏年なら2月29日)となります。

相続は「どこで」開始する?

次に、相続が起きた(開始した)場所はどこでしょうか。

これも民法に定めがあります。

民法883条(相続開始の場所)

相続は、被相続人の住所において開始する。

相続が開始するのは、被相続人の最後の住所地です。ただ、これは住民票のある場所とは限らず、被相続人が数個の住所があるときは、実務上は主たる住所地、 もしくは主たる財産の所在地をもって相続開始地とするものとされています。それが分からないほど疎遠だったなどの場合は、住民票の住所を基準にすることがあります。

これは、相続事件について裁判の管轄権(民事訴訟法5条14号、家事事件手続法191条・209条等)、相続財産の価額評価のための基準地となります。

相続開始時、相続人の生存が絶対条件!

最後の条件です。
もし今、突然相続が起きたと仮定した場合、民法に従って相続人となるべき人のことを推定相続人といいます。推定相続人は、被相続人の死亡時に生存していることが必要です。これを同時存在の原則といいます。

民法32条の2(第六節 同時死亡の推定)

数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。

生存は、たとえ1分1秒であったとしても、それが明らかであれば同時存在と認められます。しかし、それが不明な場合、民法によって同時に死亡したものと推定されます。その場合、被相続人と相続人の間では、その相続は起きません。

「推定」と「みなす」(看做す)

反証が認められるかどうかが違い
「推定」と「みなす」という条文の用語の違いは、最もよくあるご質問です。

「推定する」とは、「Aという事実があったら、『一応』Bがあったもの認めます。ただし、後で別の立証があったらBとは認めません」という意味です。
これに対して「みなす」とは、「Aという事実があったら、Bがあったものと認めます。これについては反証は認めません」という意味です。つまり、反対事実の証明が許されるかという点で大きな違いがあります。

民法32条の2についてみると、「明らかでないとき」「推定する」という文言から、1分でも1秒でも死亡確認の時に推定相続人の死亡が遅れていたことが立証されれば、同時死亡とはならず、同時存在の原則から相続が起きることを意味します。
まとめ

まとめ

今回お話ししました相続の始まりの基本原則は、以下の通りになります。

相続開始の原則

1,相続が起きる原因は、「死亡」のみ
2, 相続開始日時は、戸籍における死亡日時(期間がある時は最終日)
3,相続が起きた場所は最後の住所地
4,相続人は、被相続人の死亡時に1秒でも長く生存していること

2、3を除き、例外はありません。しっかり理解しておきましょう。

参考書籍
有斐閣アルマ 民法 親族・相続(第7版) 民法7親族相続(第6版)
有斐閣 法律学全集 相続法(第4版)
日本加除出版 相続における戸籍の見方と登記手続