相続入門

「相続はいつ、どこで始まる?相続の基本原則を解説!」では、

相続の開始時・開始場所

相続は、『被相続人の死亡時に、『被相続人の住所で開始する
(民法882条、883条)

ということをお話しました。また、

死亡の証明

戸籍に記載されて初めて公的に証明される

ということもお話ししました。 では、戸籍にはどんな時に「死亡」と記載されるのか?ということが大きな問題になります。

一般のご家庭では、一番多いのは病院などで、あるいは少なくなりましたがご自宅で、ご家族皆さんが見送るケースが多いと思います。今回は、このようなケースに当てはまる、最も基本的な自然死亡についてお話します。

自然死亡とは?

民法上相続開始時期としての自然死亡とは、医学的に診て死亡が確定したものを指します。
よくいう死因(自然死と病死との違い)ではなく、あくまで医学的に死亡しているという確定です。
この場合、医学的死亡が確定した瞬間自然死亡の時期が確定されます。

脳死は相続が開始しますか?

昨今、臓器移植について「脳死」がクローズアップされています。では、「脳死」と判断されたとき、「自然死亡」と同じものとして相続が起きるのでしょうか?

自然死亡の「判断基準」

自然死亡については、伝統的に認められている、医学的に診て三つの確定要素で決められてきました。いわゆる三兆候説です。

➀脈拍の不可逆的停止(一時的ではない脈拍の停止)
②呼吸の不可逆的停止(一時的ではない呼吸の停止)
③瞳孔の散大(同行が光に反応せず開いたままになること)

現在でも、この三つの要件に当てはまるものを医学上・法律上死亡として認められています。

「脳死」とは?

脳死とは全脳死

臓器移植法(臓器の移植に関する法律)が1997年(平成9年)に成立し、日本でも初めて「脳死」が認められました。では、「脳死」とはどんな状態を言うのでしょうか?

脳死判定にも様々な説があり、世界的に見ても、まだこれが脳死とは確定していません。日本の臓器移植法は、アメリカを含む、脳死移植が認められている国々と同様、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定される場合という全脳死説を採用しています(移植法第6条第2項)。

臓器移植法第6条第2項

前項に規定する「脳死した者の身体」とは、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の身体をいう。

脳死は「自然死亡」か?

臓器移植法では、これまでの三兆候説を基本として死亡と判定された人の遺体と、脳死と判定された人の身体を「死体」とし、ご本人の事前のご意思やご遺族の同意を条件に、これらの「死体」からの臓器移植を認めています。

つまり、臓器移植に限って脳死を死亡と同様に認める(移植法第2条第1項第2項、第6条第1項各号第2項等参照)ものですので、基本的な死亡認定が変わったわけではなく、現在はまだ脳死を「自然死亡」として認めらておらず、相続に適用することはできません

ただ、臓器移植法が制定・施行されてからは、アメリカなどに倣って脳死も人の死として認めるべきではないかという考え方(脳死説)が有力になってきました。今後議論が深まり、アメリカと同様、「人の終期」(死亡認定)を定める法律が制定されれば、脳死によって相続が開始する時代が来るかもしれません。それは、そう遠い未来ではないのかもしれませんね。

臓器移植法第2条第1項・第2項

1.死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければならない。
2.移植術に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない。

臓器移植法第6条第1項

医師は、次の各号のいずれかに該当する場合には、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。(以下略)

戸籍への記載

戸籍の届け出と死亡の時

医学的死亡が確定した瞬間自然死亡の時期が確定され、それが死亡届などの提出によって戸籍に記載された死亡年月日をもって死亡の時として確定します。

戸籍の届け出に必要なこと

自然死亡により、戸籍に死亡と記載されるには、大きく分けて二つあります。

➀一般的な場合(病院でなくなるような場合)

一般的に、病院で亡くなる場合が一番多いかと思います。その場合は、医師が発行する死亡診断書、事故などの場合は検視をした医師の死体検案書とともに、同居のご家族が死亡届を市町村に提出することで、戸籍に死亡日時までが記載されます。

②公的証明を受けて届出する場合

ただ、事故に巻き込まれて亡くなったが遺体がどうしても見つからないなどの場合には、診断書や死体検案書を提出することができないため、死亡届を提出することができません。その場合は、それに代わる死亡を証明する文書の提出とともにご家族による死亡届を行うことで、戸籍に記載されます(戸籍法86条3項)。

法務省民事局の通達による先例では、

a,官公署による死亡確実である旨の証明書

b,海難による死亡が確実とみられる船長の証明書

c,水害など事変の状況を目撃した者の死亡確実である旨の証明書

などがあります。

戸籍法第86条

1 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。

2 届書には、次の事項を記載し、診断書又は検案書を添付しなければならない。

一 死亡の年月日時分及び場所

二 その他法務省令で定める事項

3 やむを得ない事由によつて診断書又は検案書を得ることができないときは、死亡の事実を証すべき書面を以てこれに代えることができる。この場合には、届書に診断書又は検案書を得ることができない事由を記載しなければならない。

戸籍法第87条

1 次の者は、その順序に従つて、死亡の届出をしなければならない。ただし、順序にかかわらず届出をすることができる。

第一 同居の親族

第二 その他の同居者

第三 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人

2 死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人及び任意後見受任者も、これをすることができる。

戸籍にはドラマがある

昔の事項欄
戸籍には事項欄というものがあります。少し前までの戸籍には、この事項欄に様々な事情が書かれていました。
ある事案では、その事項欄に「◎年✖月△日、自宅で〇〇警察が発見、〇〇日、〇〇警察署から届出」した旨の記載がありました。おそらく何らかの通報により、最初に警察が中に入って発見した場合はこのような記載があったものと思われます(戸籍法第89条参照)。孤独死の情景がありあり…とはいかないまでも、亡くなった方の生活状況が垣間見える瞬間です。

現在は、プライバシー上の問題か、公的な書類も、必要以上の事は書かない傾向になっていますので、このような記載は全く見られなくなっています。

これ以外にも、古い戸籍を見ていると、様々な多くのドラマが読み取れる時があります。

筆者の場合、相続の関係で祖父の戸籍を調べる機会がありました。そうすると、祖父10歳の時、曾祖父(祖父の父)が亡くなり、祖父が家督相続した旨の記載がありました。

戦前は家督相続制度(俗に家制度)がありましたので、その家の財産を全て相続して承継するのが一般的でした。まさかあの祖父が、わずか10歳で家長の立場になっていたなど、全く知りませんでした。

これ以外にも、明治初期にできた戸籍であることが変わるような記載もあったり、登場人物の生年月日の年号が、幕末の短期間で次々変わっている年号ばかりだったり、果ては、当時の役所の人が、よほど筆達者であることをアピールしたかったのでしょぅ、「達筆過ぎてまるで読めない」などというとんでもない迷惑な戸籍もあります。

これ以外でも、結婚離婚の繰り返し方が独特…とか(お察しいただけるでしょうか?)。

古い戸籍に当たらなければならない相続登記では、お会いすることができない亡くなった方たちのドラマを見ることができるというのも、司法書士事務所ならではの醍醐味でもあります。

まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回は、相続の開始原因のなかで最も基本的な自然死亡をお話しました。
まとめますと、以下の通りになります。

自然死亡について

1,自然死亡とは、医学的に診て死亡が確定したもの
2, 親族などの届出義務者死亡届をすることが必要
3,通常は診断書又は検案書死亡を証明する文書も提出する
4,脳死は、自然死亡には当たらず、相続は開始しない

自然死亡は、医師の診断書などと一緒に、親族の死亡届をして初めて戸籍に記載され、「死亡」と公的に認められます。しっかり理解しておきましょう。

参考書籍
有斐閣アルマ 民法 親族・相続(第7版) 民法7親族相続(第6版)
有斐閣 法律学全集 相続法(第4版)
日本加除出版 相続における戸籍の見方と登記手続

「相続」って何?では、

相続とは

相続人が、相続開始の時に、被相続人の相続財産に含まれる権利義務について、法律上当然に包括承継すること

を説明しました。

では、相続はいつ、どこで始まるのでしょうか?それとともに、相続人はいつ、相続人となりうるのでしょうか?

今回は、相続の始まり場所に関する基本原則、さらに相続人と被相続人の存在関係について、民法以外にも密接な関係がある戸籍法などに触れながらお話しします。

相続は、いつ「開始」する?

民法の定め

まず1つ目です。
相続は、いつ始まるのでしょうか?

相続の開始の時については、民法に定めがあります。

民法882条(相続開始の原因)

相続は、死亡によって開始する。

「相続とは何か?」で説明しましたね。これは、相続の開始の原因は、唯一、被相続人「死亡」と法的に認められた時であること、被相続人の死亡を相続人が知っていたかどうかは相続の開始に全く影響しない、ということを意味します。

つまり、死亡日時に自動的に相続します。

公的に「死亡」と認定(証明)されるには?

相続開始は死亡時って、何だ、亡くなった時か、そんなの当たり前じゃないかと思われたかもしれません。
確かに、法的には死亡時に自動的に相続しています。では、どんな時に公的に「その死亡日時に死亡した」と認められるのでしょうか?実務上、その死亡日時を法的に(公的に)できる限り確定しなければなりません

日本においては、公的に死亡が証明されるのは、戸籍に「その死亡日時に死亡した」と記載されたときからです。

ただし、戸籍による死亡日時は、証明力はありますが、あくまで「推定であり、反証によって覆すことが可能です。

戸籍法第86条

1 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。

2 届書には、次の事項を記載し、診断書又は検案書を添付しなければならない。

一 死亡の年月日時分及び場所

二 その他法務省令で定める事項

3 やむを得ない事由によつて診断書又は検案書を得ることができないときは、死亡の事実を証すべき書面を以てこれに代えることができる。この場合には、届書に診断書又は検案書を得ることができない事由を記載しなければならない。

戸籍とは?-

戸籍の記載=公的な「死亡」の証明-
戸籍は日本国民について編製され,人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するものであり、日本国籍をも公証する唯一の制度です。
(法務省ホームページ https://www.moj.go.jp/MINJI/koseki.html
 
我が国日本では、国が国民の日本国籍と生死を公的に証明(公証)するものは戸籍です。相続の開始原因である死亡は、戸籍に「死亡」と記載された時から誰に対しても証明される状態になります。それゆえ、相続に関する手続きには、ほぼ必ず戸籍が使われます。
つまり、実際の相続は、戸籍法に則り、戸籍に被相続人の「死亡」を記載してもらえて初めて前に進むことができるのです。

「死亡」と戸籍に記載されるのに必要なものは何か、そもそも、何をもって「死亡」とするのかなどにつきましては、別の機会に詳しくお話しします。ここでは、病院で亡くなった場合をイメージすれば大丈夫です。
まずは、実務上はまずは戸籍に「死亡」との記載があって初めて相続が動き出すこと、逆に言えば、「死亡」の公的証明として戸籍の記載が必要であることは覚えておきましょう。

戸籍の記載と「死亡の時」~孤独死など~

孤独死と分かる記載

通常、戸籍では、

【死亡日】令和〇年4月1日
【死亡時分】午前0時20分
【死亡地】…

と書かれています。
何らの反証もなければ、この令和〇年4月1日午前0時20分が相続開始日時とされます。

ただ、当事務所のご相談でも、必ず何年かに1回は、「家で一人で亡くなっていた」といういわゆる孤独死の事案に出会うことがあります。問題は、自然死亡ではあるけれども、いつ亡くなったかが分からないという点です。

このような場合、戸籍にはどのような記載がなされるのでしょうか?

このような場合は、一旦行政解剖などが行われるので、そこである程度の期間が回答されることも。孤独死などでは以下のような記載がなされます。

「推定令和〇年2月1日 死亡」

「令和〇年2月1日時刻不詳 死亡」

「令和〇年2月1日から10日頃までの間 死亡」

「令和〇年2月1日から10日間」

「令和〇年2月頃 死亡」

さて、皆さんはどの日が相続開始日になるかおわかりですか?

「推定令和〇年2月1日 死亡」

「推定という言葉がついていますが、具体的な日付が入っていますので、相続開始日は2月1日です。ただし、死の先後が争われる場合、時刻の記載がないことで同時死亡が適用されることがあります。

「令和〇年2月1日時刻不詳 死亡」

こちらも時刻まではわからないものの、日付は特定できている状態ですので、相続開始日は2月1日です。ただし、➀と同様に、死の先後が争われる場合、時刻の記載がないことで同時死亡が適用されることがあります。

「令和〇年2月1日から10日頃までの間 死亡」

このように何日間かのどこかの時点で亡くなった、とするならば、相続開始の時点が定まらないことになってしまいます。このような場合、どこで相続が開始するのでしょうか?

実は、実務上は、この期間の最後の日ということになっています。相続開始の日を一番前に持ってくると不利になってしまうこともあるため、死亡が確実と考えられる一番最後の日の開始時点で統一されています。

ですので、相続開始日は2月10日です。

④「令和〇年2月1日から10日間」

これも③と同じように期間の最終日です。相続開始日は2月10日となります。

「令和〇年2月頃 死亡」

日付がなく、2月「頃」というほぼ一か月の期間が与えられています。この場合も全く同じで、相続開始日は2月28日(閏年なら2月29日)となります。

相続は「どこで」開始する?

次に、相続が起きた(開始した)場所はどこでしょうか。

これも民法に定めがあります。

民法883条(相続開始の場所)

相続は、被相続人の住所において開始する。

相続が開始するのは、被相続人の最後の住所地です。ただ、これは住民票のある場所とは限らず、被相続人が数個の住所があるときは、実務上は主たる住所地、 もしくは主たる財産の所在地をもって相続開始地とするものとされています。それが分からないほど疎遠だったなどの場合は、住民票の住所を基準にすることがあります。

これは、相続事件について裁判の管轄権(民事訴訟法5条14号、家事事件手続法191条・209条等)、相続財産の価額評価のための基準地となります。

相続開始時、相続人の生存が絶対条件!

最後の条件です。
もし今、突然相続が起きたと仮定した場合、民法に従って相続人となるべき人のことを推定相続人といいます。推定相続人は、被相続人の死亡時に生存していることが必要です。これを同時存在の原則といいます。

民法32条の2(第六節 同時死亡の推定)

数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。

生存は、たとえ1分1秒であったとしても、それが明らかであれば同時存在と認められます。しかし、それが不明な場合、民法によって同時に死亡したものと推定されます。その場合、被相続人と相続人の間では、その相続は起きません。

「推定」と「みなす」(看做す)

反証が認められるかどうかが違い
「推定」と「みなす」という条文の用語の違いは、最もよくあるご質問です。

「推定する」とは、「Aという事実があったら、『一応』Bがあったもの認めます。ただし、後で別の立証があったらBとは認めません」という意味です。
これに対して「みなす」とは、「Aという事実があったら、Bがあったものと認めます。これについては反証は認めません」という意味です。つまり、反対事実の証明が許されるかという点で大きな違いがあります。

民法32条の2についてみると、「明らかでないとき」「推定する」という文言から、1分でも1秒でも死亡確認の時に推定相続人の死亡が遅れていたことが立証されれば、同時死亡とはならず、同時存在の原則から相続が起きることを意味します。
まとめ

まとめ

今回お話ししました相続の始まりの基本原則は、以下の通りになります。

相続開始の原則

1,相続が起きる原因は、「死亡」のみ
2, 相続開始日時は、戸籍における死亡日時(期間がある時は最終日)
3,相続が起きた場所は最後の住所地
4,相続人は、被相続人の死亡時に1秒でも長く生存していること

2、3を除き、例外はありません。しっかり理解しておきましょう。

参考書籍
有斐閣アルマ 民法 親族・相続(第7版) 民法7親族相続(第6版)
有斐閣 法律学全集 相続法(第4版)
日本加除出版 相続における戸籍の見方と登記手続