相続入門

相続はいつ、どこで始まる?②~自然死亡~

相続っていつから柴丸の?②自然死亡

「相続はいつ、どこで始まる?相続の基本原則を解説!」では、

ということをお話しました。また、

死亡の証明

戸籍に記載されて初めて公的に証明される

ということもお話ししました。 では、戸籍にはどんな時に「死亡」と記載されるのか?ということが大きな問題になります。

一般のご家庭では、一番多いのは病院などで、あるいは少なくなりましたがご自宅で、ご家族皆さんが見送るケースが多いと思います。今回は、このようなケースに当てはまる、最も基本的な自然死亡についてお話します。

自然死亡とは?

民法上相続開始時期としての自然死亡とは、医学的に診て死亡が確定したものを指します。
よくいう死因(自然死と病死との違い)ではなく、あくまで医学的に死亡しているという確定です。
この場合、医学的死亡が確定した瞬間自然死亡の時期が確定されます。

脳死は相続が開始しますか?

昨今、臓器移植について「脳死」がクローズアップされています。では、「脳死」と判断されたとき、「自然死亡」と同じものとして相続が起きるのでしょうか?

自然死亡の「判断基準」

自然死亡については、伝統的に認められている、医学的に診て三つの確定要素で決められてきました。いわゆる三兆候説です。

➀脈拍の不可逆的停止(一時的ではない脈拍の停止)
②呼吸の不可逆的停止(一時的ではない呼吸の停止)
③瞳孔の散大(同行が光に反応せず開いたままになること)

現在でも、この三つの要件に当てはまるものを医学上・法律上死亡として認められています。

「脳死」とは?

脳死とは全脳死

臓器移植法(臓器の移植に関する法律)が1997年(平成9年)に成立し、日本でも初めて「脳死」が認められました。では、「脳死」とはどんな状態を言うのでしょうか?

脳死判定にも様々な説があり、世界的に見ても、まだこれが脳死とは確定していません。日本の臓器移植法は、アメリカを含む、脳死移植が認められている国々と同様、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定される場合という全脳死説を採用しています(移植法第6条第2項)。

臓器移植法第6条第2項

前項に規定する「脳死した者の身体」とは、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の身体をいう。

脳死は「自然死亡」か?

臓器移植法では、これまでの三兆候説を基本として死亡と判定された人の遺体と、脳死と判定された人の身体を「死体」とし、ご本人の事前のご意思やご遺族の同意を条件に、これらの「死体」からの臓器移植を認めています。

つまり、臓器移植に限って脳死を死亡と同様に認める(移植法第2条第1項第2項、第6条第1項各号第2項等参照)ものですので、基本的な死亡認定が変わったわけではなく、現在はまだ脳死を「自然死亡」として認めらておらず、相続に適用することはできません

ただ、臓器移植法が制定・施行されてからは、アメリカなどに倣って脳死も人の死として認めるべきではないかという考え方(脳死説)が有力になってきました。今後議論が深まり、アメリカと同様、「人の終期」(死亡認定)を定める法律が制定されれば、脳死によって相続が開始する時代が来るかもしれません。それは、そう遠い未来ではないのかもしれませんね。

臓器移植法第2条第1項・第2項

1.死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければならない。
2.移植術に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない。

臓器移植法第6条第1項

医師は、次の各号のいずれかに該当する場合には、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。(以下略)

戸籍への記載

戸籍の届け出と死亡の時

医学的死亡が確定した瞬間自然死亡の時期が確定され、それが死亡届などの提出によって戸籍に記載された死亡年月日をもって死亡の時として確定します。

戸籍の届け出に必要なこと

自然死亡により、戸籍に死亡と記載されるには、大きく分けて二つあります。

➀一般的な場合(病院でなくなるような場合)

一般的に、病院で亡くなる場合が一番多いかと思います。その場合は、医師が発行する死亡診断書、事故などの場合は検視をした医師の死体検案書とともに、同居のご家族が死亡届を市町村に提出することで、戸籍に死亡日時までが記載されます。

②公的証明を受けて届出する場合

ただ、事故に巻き込まれて亡くなったが遺体がどうしても見つからないなどの場合には、診断書や死体検案書を提出することができないため、死亡届を提出することができません。その場合は、それに代わる死亡を証明する文書の提出とともにご家族による死亡届を行うことで、戸籍に記載されます(戸籍法86条3項)。

法務省民事局の通達による先例では、

a,官公署による死亡確実である旨の証明書

b,海難による死亡が確実とみられる船長の証明書

c,水害など事変の状況を目撃した者の死亡確実である旨の証明書

などがあります。

戸籍法第86条

1 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。

2 届書には、次の事項を記載し、診断書又は検案書を添付しなければならない。

一 死亡の年月日時分及び場所

二 その他法務省令で定める事項

3 やむを得ない事由によつて診断書又は検案書を得ることができないときは、死亡の事実を証すべき書面を以てこれに代えることができる。この場合には、届書に診断書又は検案書を得ることができない事由を記載しなければならない。

戸籍法第87条

1 次の者は、その順序に従つて、死亡の届出をしなければならない。ただし、順序にかかわらず届出をすることができる。

第一 同居の親族

第二 その他の同居者

第三 家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人

2 死亡の届出は、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人及び任意後見受任者も、これをすることができる。

戸籍にはドラマがある

昔の事項欄
戸籍には事項欄というものがあります。少し前までの戸籍には、この事項欄に様々な事情が書かれていました。
ある事案では、その事項欄に「◎年✖月△日、自宅で〇〇警察が発見、〇〇日、〇〇警察署から届出」した旨の記載がありました。おそらく何らかの通報により、最初に警察が中に入って発見した場合はこのような記載があったものと思われます(戸籍法第89条参照)。孤独死の情景がありあり…とはいかないまでも、亡くなった方の生活状況が垣間見える瞬間です。

現在は、プライバシー上の問題か、公的な書類も、必要以上の事は書かない傾向になっていますので、このような記載は全く見られなくなっています。

これ以外にも、古い戸籍を見ていると、様々な多くのドラマが読み取れる時があります。

筆者の場合、相続の関係で祖父の戸籍を調べる機会がありました。そうすると、祖父10歳の時、曾祖父(祖父の父)が亡くなり、祖父が家督相続した旨の記載がありました。

戦前は家督相続制度(俗に家制度)がありましたので、その家の財産を全て相続して承継するのが一般的でした。まさかあの祖父が、わずか10歳で家長の立場になっていたなど、全く知りませんでした。

これ以外にも、明治初期にできた戸籍であることが変わるような記載もあったり、登場人物の生年月日の年号が、幕末の短期間で次々変わっている年号ばかりだったり、果ては、当時の役所の人が、よほど筆達者であることをアピールしたかったのでしょぅ、「達筆過ぎてまるで読めない」などというとんでもない迷惑な戸籍もあります。

これ以外でも、結婚離婚の繰り返し方が独特…とか(お察しいただけるでしょうか?)。

古い戸籍に当たらなければならない相続登記では、お会いすることができない亡くなった方たちのドラマを見ることができるというのも、司法書士事務所ならではの醍醐味でもあります。

まとめ

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回は、相続の開始原因のなかで最も基本的な自然死亡をお話しました。
まとめますと、以下の通りになります。

自然死亡について

1,自然死亡とは、医学的に診て死亡が確定したもの
2, 親族などの届出義務者死亡届をすることが必要
3,通常は診断書又は検案書死亡を証明する文書も提出する
4,脳死は、自然死亡には当たらず、相続は開始しない

自然死亡は、医師の診断書などと一緒に、親族の死亡届をして初めて戸籍に記載され、「死亡」と公的に認められます。しっかり理解しておきましょう。

参考書籍
有斐閣アルマ 民法 親族・相続(第7版) 民法7親族相続(第6版)
有斐閣 法律学全集 相続法(第4版)
日本加除出版 相続における戸籍の見方と登記手続