相続相談事例集

先妻の子と後妻の遺言

Aさんは、甲さんと結婚し、共に小学校教諭として定年まで勤務しました。甲さんは、定年後も私立大学附属小学校の校長も勤めるほどの教育者でしたが、76歳で亡くなりました。

甲さんは、Aさんとの結婚は二度目で、甲さんとAさんの間にはお子さんはおられず、先妻との間に乙さん、丙さん、丁さんのお子さんがおられます(ただし、Aさんとは養子縁組はしていません)。乙さんは長男で、青年になるまでは甲さんとAさんと同居し、その後、京都の嵯峨野でお寺の住職になられました。

Aさんには、ご自身のものと甲さんから相続したものとを合わせて、相当多額の預金がありました。住職乙さんは、「老後の面倒は自分が見る」とAさんに熱心に説得し、自分のところに来させました。ところが、住職乙さんは、最初こそ手厚くもてなす姿勢を見せていましたが、何かにつけて預金目当ての行動がすぐに目立つようになりました。

これをAさんから打ち明けられ、助けを求められたAさんの実弟Xさんは、「何たることか!このままでは、金をむしり取られて姉が生活できなくなる!」と直感し、姉Aさんの希望通りすぐにXさんのもとへ引き取り、財産も全て引き渡すように住職乙に迫りました。
調べてみると、「生活費」と称して預金を下ろさせたり、「印鑑が必要だ」と言って銀行届出印を持ち出させ、勝手に自分の借金の担保にAさんの預金を当てたりするなど、思ったよりも相当酷いことをしており、最初からAさんの財産目当てではなかったか?と思える行動をしていたことが分かりました。

さらに、住職乙さんは、知り合いの京都の弁護士のところへ連れて行き、「Aさんの財産は、全て住職乙さんに遺贈する」という内容の遺言書を書かせ、署名・捺印を行わせるという、極めてあからさまな行動をしていることが、Aさんの告白によって分かりました。

怒り心頭となったXさんと、またあのような行動に出る乙さんに全財産を渡すような遺言書を書いたことを後悔されているAさんは、どうしたものかと小川勝久顧問のもとにご相談に来られました。

小川勝久顧問は、相談内容を伺い、最初はかなり驚きました。相続の骨肉の争いは多く見てきましたが、先妻の子が後妻の財産を狙うなど、見たことも聞いたこともなかったからです。

小川勝久顧問は、とにかくまず、担保に入れられた預金について住職乙さんと話し合い、担保をはずさせた上で全額取り返し、Aさんの暮らしが立つようにしました。その上で、AさんとXさんには、遺言書については三種類あること、Aさんが書いたのは、ほぼ間違いなく自筆証書遺言と呼ばれる方式であること、遺言書の効力が生じるのは、Aさんがなくなった時であること、だから生存中に遺言の取り消しを後から書いた遺言で行うことができること、さらに、後から書いた遺言書と前の遺言書とで、内容が相反するなど抵触する部分があるときは、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなされること(民法1023条)などを説明しました。
Xさんと、特にAさんはとても安心したご様子になられました。

そこで、Aさんより、「実弟Xに全ての財産を譲ることにしたい」という強いご希望が出されました。小川勝久顧問は、住職乙さんには相続権が無く、既にご両親が他界されたAさんとXさんの場合、相続人はXさんしかいないので、「それならば、『実弟Xに全財産を相続させる』という内容の公正証書遺言を作りましょう」とお勧めしました。
これまでの説明を聞いて安心されていたAさんは、すぐに手続きを依頼され、ご希望通りの公正証書遺言を公証人役場で作成してもらうことができました。
この遺言書では、遺言執行者を小川勝久顧問に指定されていました。

それから3年後、小川勝久顧問は、XさんよりAさんが亡くなったことをお知らせ頂き、お通夜の席に一緒に出てほしいとの要請を受けました。お通夜に着いてみると、丁度住職乙さんが、参列者一同の前で、得意満面に遺言書を披露しているところでした。
そこで、小川勝久顧問が、その遺言書は、その後に作成された公正証書遺言で全て取り消されており、効力は後に作成された公正証書遺言が全て優先していること、自分が遺言執行者に指定されていることを一同の前で住職乙さんに説明しました。
愕然となった住職乙さんは、その場で憤然とお通夜の席を立ち、そのまま翌日の葬儀にも出席しませんでした。
住職とはとても思えぬ大変呆れた態度でしたが、親族一同は、これからの相続内容をお聞きになって、大変安心されたご様子でした。

その後、遺言書通り、小川勝久顧問によってXさんへ全財産が引き渡されました。