相続相談事例集

相続相談事例

相続と訴訟その①~遺産分割と不動産明渡請求

Aさん(次男)は、お父さんのXさんがお亡くなりになった時、故郷の不動産について、お母さんのYさん、ご兄弟のBさん(長男)とCさん(長女)とで遺産分割協議をしようとしました。しかし、Bさんは応じようとはしません。

Bさんは長男である事から、Xさんは、いわゆる「家を継がせる」というお気持ちから、20年ほど前に「帰って来いよ」と仰られ、Bさんは奥さんのB2さんと共に故郷の家に入居し、XYご夫婦は、同じ敷地の納屋を改造した離れに住むようになりました。
ところが、Bさんは、固定資産税などの支払いをしないのは勿論のこと、家の仕事をしなくなり、逆に多額の借金をして、XYご夫妻やAさんに肩代わりさせたり、B2さんのXYご夫妻に対してひどい態度をとるなど、目に余る行動が目立ち、ついにXさんから「出て行け!」と再三再四求められるようになっていた状態でした。このような時にXさんは亡くなられ、遺産分割協議が行われようとしていたのでした。

全く協議に応じようとしないBさんのために、Aさんは、YさんとCさんと共に、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てました。Bさんは、調停期日の一回目こそ出席しましたが(『家は出て行くが、細かい事とは次回の期日に明確にする』と言っていたそうです)、その後、10回以上もの期日が置かれたのに一度も出席する事はありませんでした。
結局、YさんとCさんの当初からのご意思の通り、お二人は持分をAさんに譲渡して調停を脱退し、AさんとBさんについては家庭裁判所の審判が行われ、当該不動産の全てをAさんが相続することとする審判が下され、確定しました。

Aさんは、YさんとCさんが調停を脱退した後、AさんとBさんの相続持分の登記をしておいたため、この審判による持分移転登記と、Bさんらに対し、家から立ち退いてもらうための訴訟を起こしたいとのご希望で、当相談室に来られました。
まず、Aさんは、Bさんの持分について、審判を原因とする移転登記をご依頼を頂き、登記を行いました。
次に、Aさんは、BさんとB2さんを相手取り、土地建物明渡と損害賠償を求める訴え(本人訴訟)を起こすことに決め、当事務所は、訴状その他の作成による支援を行う事となり、不動産の管轄地の地方裁判所に訴訟提起しました。

訴状でこれらの事情を丁寧に説明したAさんの主張のことごとくについて、Bさんらは、「全く関係ないもので余事記載である」と主張しながら、訴状で主張された事情をもって、Bさん夫妻の死亡を終期とする使用貸借権を得た、またはこれを時効取得した、との理論構成で答弁書を提出してきました。

裁判官は、第一回口頭弁論期日において、「終期など条件が付された使用貸借関係があったと主張するのであれば、契約書などがあるのでしょう?被告は、それを示す書面をもって証明しなさい」とだけ釈明が行われ、両当事者に事情を明らかにする陳述書の提出を求めてこられました。これについて、両当事者は陳述書を提出し、これらのことが明確に裁判官に伝わる事になりました。
第二回口頭弁論期日で、裁判官は、和解をさせようとしました。Aさんは、訴状で賃貸借などの契約関係を締結するつもりが無い事を宣言していたため、明け渡しは変わらないけれども損害賠償については考えるとしましたが、Bさん側(特にB2さん)が、裁判官に大きな声で悪態をつくなど、全く聞いた事がないような態度をとったため紛糾して終わりました。

裁判官は、何度かの期日を経て、最後の期日まで和解を図っていましたが、Bさん側が、訴訟とは関係のないことまで法廷で持ち出して強硬な態度を採り続けたため、結審し判決を下すことにしました。
判決は、不動産明渡しと損害賠償を認めました。理由は、
Xさんが帰郷を促し、同じ敷地に住み、家業の一部を手伝うなどしていた事情から、亡くなったXさんとBさんとの間には、当該不動産について、Xさんが死亡し相続が開始した後も、遺産分割によりその所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続きBさんに無償で当該不動産を使用させる合意があったものと推定できるものの(最高裁平成8年12月17日判決)、上記推認は遺産分割後にまで及ぶものではなく、本件において遺産分割を経てなお、Bさんらが主張するような、Bさんらが死亡するまでの間、当該不動産を無償で使用させる旨の使用貸借関係が成立したと認めるに足りる証拠はない。
土地に対する使用貸借上の借主の権利の時効取得が成立するためには、土地の継続的な使用収益という外形的事実が存在し、かつ、その使用収益が土地の借主としての権利の行使の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることを必要とすると解すべきところ(最高裁昭和48年4月13日判決)、本件において、Bさんらが自ら認めている事実として固定資産税を負担していなかった事実もあり、このような権利行使を客観的に表現されていたと認めるに足りる証拠はない。
審判以後は、Bさんらについては、賃料相当分の損害賠償の責任がある。
との内容で、ほぼAさんの完全勝利となりました。

判決確定後、AさんとBさんご夫妻は話し合い、Bさんたちは観念し、きちんと退去しました。


※コメント
今回の事例は、遺産分割紛糾後、家庭裁判所の審判を経た後に、訴訟にまで発展したケースです。
遺産分割の審判で、相手方がかなり下手な方法をとってしまい、審判でこちらの主張がそのままに近い形で通ってしまった、少し珍しい部類に入ると思います。
というのも、このような審判の場合、法定相続分での共有になるケースも少なくないからです。
本件に関しましては、ご本人が大変な勉強家で、事前に法廷でのやり取りを予想して、訴訟に臨んでおられました。特に、判例の理解が大変必要な事案で、判決が結果的にご本人の主張通りのものになったのは、判例の理解と、その判例の要件に必要な主張立証をきちんと行ったからです。
本人訴訟では、ご本人の強いご意志と、法律等に対する理解力がまずとても大切です。