相続相談事例集

相続人の中に生死不明な不在者がいるケース

Aさん(長女)には、B(長男)・C(次男)・D(次女)・E(三男)の兄弟がありました。Bさんは、第二次世界大戦のニューギニア戦線で戦死され、Cさんは10年以上行方不明、Dさんは結婚して嫁ぎ、Eさんは、両親よりも先に亡くなられ、妻との間にE1・E2の一男一女をもうけておられました。
Aさんご兄弟のお父上である甲氏が昭和40年に亡くなられており、甲氏所有の土地建物が甲名義のままになっていました。母上である乙氏は、甲氏よりも先に病没されておられます。
Aさんたちは、甲氏の土地建物をEさんの遺児であるE1・E2両氏の物としたいと考え、当事務所のもとにご相談に来られました。

遺産分割と相続登記の依頼を受け、早速、相続人の確認とCさんの行方の調査を開始しました。

調査の結果、確かに、相続人は、Aさん、Cさん、Dさん、Eさんの代襲相続人であるE1さんE2さんであると判明しました。
しかし、問題は、10年以上行方不明で音信不通のCさんです。Cさんは、戸籍と住民票の上では、本籍地に住所を定めたままで、現在もそこに居住していることになっていますが、勿論実際は居住していません。
そこで、Aさんに「Cさんと最後に連絡がとれたのはいつでしょうか?」と尋ねたところ、10年ほど前に、戸籍と住民票記載の住所地からは遥か遠隔地である横浜局消印の葉書が届いたきりであるとおっしゃいます。その他には、相続人全員にも何の手がかりがないことが分かりました。
その他にも八方手を尽くして知人や親戚などをあたり、Cさんの行方を捜しましたが、一向に判明せず、結局、Cさんは行方不明のままでした。
このままでは、現在存命が判明している相続人だけで遺産分割ができない状態になっています

そこで、最後の手段として失踪宣告(民法30条1項)の申立てを行う以外、方法は無いと判断し、Aさん他相続人全員に説明いたしました。Aさんたち全員も納得され、申立てを行うことになりました。

失踪宣告は、不在者の生死が7年間明らかでないこと(普通失踪)の要件を満たすと考えられます。Cさんの本籍地管轄の家庭裁判所に利害関係人であるAさん他相続人全員が申立てを行い、家庭裁判所より失踪宣告がなされました。
失踪宣告は、7年間の期間が満了した時点で死亡したものとみなされます(民法31条)。これで、Aさん、Dさん、E1さん、E2さんで遺産分割をすることができるようになりましたので、全員で協議し、遺産分割協議書が作成され、やっとAさん他相続人全員のご希望通り、甲氏名義の土地建物をE1さんE2さん両氏への所有権移転登記(各持分2分の1)をすることができました。

しかし、事態は誰も予想しない方向へと動きました。遺産分割後、僅か2ヶ月足らずで、何と、Cさんの存命が発覚したのです。
Cさんは、どうしても戸籍が必要になり、取り寄せてみたところ、自分が失踪宣告を受け、死亡したものとして扱われていることを知り、市役所と家庭裁判所に申し出て説明を受け、びっくりしたCさんから直接Aさんに連絡があったというのです。
Aさんは、大変驚かれると共に、「遺産分割はどうなるのだろうか?」と大変心配なされました。

そこで、当相談室は、Aさんを始めとする相続人全員が、Cさんのご存命について全く知らなかった(Cの生存について善意)のであるから、今回の失踪宣告は取り消されるだろうが、遺産分割の効果は変わらないこと(民法31条)を説明しました。

後に、Cさんも事態の全容を知り、家庭裁判所で説明を受けてきたので、「自分に非があるのだから」と遺産分割に全く異議は無いことを明言され(それよりもご自分の失踪宣告の取り消しの方が重大だったようです)、遺産分割による相続登記は、当初の予定通りの結果に終わりました。