相続Q&A

相続相談事例

限定承認は簡単なものでしょうか?

遺産の財産状況によります。安易に判断する事は禁物です。

限定承認は、負債が後で分かったとしても、プラスの財産の範囲内でのみ、責任を負う事ができる制度です(限定承認って、どんなものですか?参照)。この点をとらえると、確かに、一見して得が多いように想えます。

しかし、限定承認には大きな落とし穴があります。
それは、通常の単純承認による課税とは違うものがあるからです。

限定承認の場合、相続財産のうち、預貯金その他金銭債権を含む現金を除き、土地、借地権、建物、株式等、特定の公社債、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)などがあった場合、限定承認の申述をした場合はまずこれらの資産について相続人に対して譲渡があったものとみなされ、譲渡所得税がかかります(みなし譲渡所得税)。
これは、故人の確定申告(準確定申告)の申告期間である4か月内にしなければなりません。

この譲渡所得税を支払った残りに対して相続税が別途計算されます。

つまり、限定承認の場合、二つの項目で課税されることとなっているのです。

当事務所でよくある限定承認のパターンは、①自分が相続人であることを突然知って、調べてみたら現金が何百万かあった、②今まで親(親族)は経営をしてきたが、家や事業資産はこの後も使いたい、しかし、故人の生前にはあまりタッチしてこなかったので、財務・経営・債務関係などの内容に大きな不安がある、等でした。

ここで、資産内容によるとしたのは、正に②のパターンです。

①のパターンでは、現金のみですので、単純に通常の相続税を計算すればよく、もし債権者などいなければ、単純承認と何ら変わらないことになります。実際には、相続税もかからないということも多いと思われます。

しかし、②のパターンでは、安易な限定承認は、その後大変なことになってしまう恐れがあることに注意が必要です。

例えば、相続財産が①自宅、②故人が経営していた会社の株式、③事業に供していた故人名義の資産、④申し出のある債権者あり、⑤現金資産という場合、このような事業承継の例で、安易に限定承認をしてしまうと、どうなるでしょうか?
まず、限定承認を行った場合、限定承認の熟慮期間3か月内にこれらの事情をはかり、申し出た債権者に支払い、尚且つ納税するということが必要で、これについて現金資産が足りていたり、ご自分で用意する事が出来る場合はともかく、受け継ぐ現金資産を前提に限定承認をお考えの場合、相続人が不動産等を残そうとしても、これらの支出に現金資産が足りず、不動産等を競売等を通じて現金化し、弁済しなければならないという、目的からすれば本末転倒な事態も考えられます。

そして、仮に熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申し立て、認められたとしても、準確定申告4か月の起算点について相続人が相続を知った時として固定されたものとする高裁判例があります(東京高裁平成15年3月10日判決(判例時報1861号31頁))。この判例には争いがあり、熟慮期間の理解について極めて問題があると言わざるを得ませんが、これに従えば、たった4か月内に全てを終えるスケジュールと支払いまでの明確なビジョンを持たなければならないことになり、色々と大変なことが多い時期に困難な事務作業を強いられる結果となりかねません。

このような問題になる前に、相続対策を入念に行う事が非常に大切です。

このように、単なる不安を取り除くという意味合いでの、現金資産の相続につき限定承認を行う場合は問題ないとしても、不動産や株式などを含んだ場合、特に、事業承継の事例で安易に限定承認を行う事はお勧めできない場合があるのです。

特に事業承継をお考えの場合、相続対策から始められることを強くお勧めします。

参考:国税庁ホームページ「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」

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