相続トピックス

新型コロナは遺言も作らせない?新型コロナウイルスと遺言と看護・介護の家族の現状②(母の場合)
新型コロナウイルス禍から1年、両親の経験を振り返ります
新型コロナウイルス(COVID-19)の存在が分かり、日本に広まり始めたのは2020年(令和2年)の1月ころからだと思います。
対岸の火事だったものが、あっという間に日本という国と社会を変化させ、それによって、高齢者の看護・介護の成果は大きく変わってしまいました。
筆者は、両親の病気と看護、そしてその後の介護を通じて、その様々な変化を経験しました。今回は、筆者の父について、その経験に基づき、時系列でこの1年を振り返りたいと思います。
筆者の父と母が、このコロナ禍の時期に重なって看護・介護が問題になったため、父編、母編に分けてお送りします。高齢者のご家族がおられる方は、是非、両方とも最初からご覧くださいませ。
- 筆者
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相続コンサルタント
M&Aシニアエキスパート
所員プロフィールへ小川博志
- 監修
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大阪西天満司法書士事務所
代表司法書士
所員プロフィールへ貝塚尚子
2020年5月-母、突然倒れる
5月-母が倒れているのを発見される
父が1月に入院してから、母は、家の中であまり動かなくなってしまいました。
やはり、父がいないと、動く用事が減ってしまい、また話し相手もいないのでテレビの前に座ったままでいることが増えていったのだと思います。
しかし、これがいけませんでした。
母は、椅子に座りっぱなしの状態からでしょう、エコノミークラス症候群の状態になって膝に血腫ができ、それが肺に飛んで肺塞栓症を引き起こし、2階に上がる階段で倒れているところを私の妻に発見されました。
すぐさま、行きつけの大きな病院に入院することになりました。
結局、1か月弱入院しました。
この時は、あまり気にしていませんでしたが、少し認知症が入り始めていました。
2020年11月-転倒し、また入院
10月、朝に血まみれの母が!
10月になって、朝、私が母を見に行くと、血まみれになって床に座り込んでいました。
ベッドから起き上がるときに転倒し頭をぶつけて切ってしまった、ということでした。
すぐさま、救急車で運ばれることになりました。
頭の傷よりも重い病気
頭の傷は5針ほどを縫うものでしたが、病院としては、頭の傷だけだったら帰宅させるつもりだったそうです。
問題は、横紋筋融解症を発症していたことでした。
筋肉の中の横紋筋が、長時間の強い圧迫を受けて溶け出し、腎臓に直撃してしまうという危険なもので、あの阪神大震災の時にこの病気で多数の人が亡くなったと聞いていました。
この治療が2週間、その後弱った足腰のリハビリでさらに1か月ほど入院しました。
退院後、要介護度の見直しへ
退院後、足腰の力は、もう完全に戻ることはないことがはっきりしました。
また、認知症も進み、日常生活で新たに覚えられることが、かなり少なくなっていました。
自宅での介護も相当サポートが必要になることは明白でしたので、ケアマネージャーさんと相談し、要介護度の見直しを市にお願いし、結果、要介護3に認定されました。
家での介護もかなりのものになりつつあったため、特養老人ホームの入居先を探し、一か月の多くをショートステイで過ごしてもらう日々が始まりました。
申し込んだ特養老人ホームから電話が!
年明けに、申し込んでいた特養老人ホームさんに事務手続きでお願いしていたところ、その返答とともに、
「お母様、『お急ぎ』ですよね?」
と言われ、突然入所が決まりました。
これは大変ありがたいお申し出だったので、すぐにお願いし、訪問・聞き取りなどの手続きののち、2021年4月に入所が決まりました。
本当に突然で、大変ありがたかったです。
2021年3月-母にも新型コロナウイルスの魔の手が迫る
3月~ショートステイ先で新型コロナウイルス患者が!
特養老人ホームに入居するまでは、自宅とショートステイとで介護をお願いし、自宅から特養老人ホームへ入居してもらうという段取りになりました。
ところが。
ショートステイから帰宅する予定になっていた日に、施設から連絡があり、母と同じフロアに滞在している利用者さんの中から、帰宅後発熱され、PCR検査の結果、新型コロナウイルスの陽性反応が出たということでした。
市の保健所の判断により、濃厚接触者に認定され、施設に12日間、強制隔離のために滞在が延長されることになりました。
これで、老人ホームへは、何事もなければショートステイ退去の日にそのまま入所となり、もし陽性反応が出たら、入院その他確実に入居できる状態になってから、という条件付きになってしまいました。
何度かのPCR検査も陰性!
その後、複数回のPCR検査の結果、いずれも陰性だったので、予定通りの退所と特養老人ホームへの入居が決まりました。
結局、母と同じフロアの利用者さんから複数名、新型コロナウイルスの陽性者が出たとのことで、母は本当に強運の持ち主だったと思います。
- ※注:施設の方々には感謝しています
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父の病院、老健や母がお世話になっていた様々な介護施設における新型コロナウイルス感染問題につきまして、筆者は、介護施設とその職員の方々に対し、非難するつもりなど毛頭ありません。
介護をしていただいている上に、施設の方々にかかる新型コロナウイルスのさらなる負担は計り知れないことを考えると、施設等の方々には感謝しかありません。仮に、新型コロナウイルスを含めた感染症により命を縮める結果になったとしても、それはどうしようもなかったことだと考えています。
いつも本当にお世話になり、誠にありがとうございます。筆者・小川博志
2021年4月、特養老人ホームへ入居
面会はガラス越しのみ
予定通り、母は、特養老人ホームへに入居しました。
入居でも限定された部屋しか入れず、また、やはり直接面談は不可能で、分厚いガラス越しに電話でお話する、ということしかできない状態になりました。
2021年10月現在-
2021年10月現在、新型コロナウイルス対策のため、母のしせつも面会謝絶状態です。
この状況は、今後もまだ変わらないと思います。
コロナ禍から得た相続対策への教訓
父のみならず母までも新型コロナウイルスの影響が及んだ
母の入院から施設への入所まで、とにかく新型コロナウイルスに邪魔され、通常よりも不安と慌ただしさが際立つ状態に置かれ、誠に疲れました。
まさか、筆者の父親のみならず母親までもが、こんな形で新型コロナウイルスに翻弄される事態になるとは、一切想像できませんでした。また、会えないことがこれほどにまで家族を分断することになるとは、想像が全くできなかったことです。
母の入所時、どんなお部屋かも見ることは、かないませんでした。これは、仕方がなかったと思います。
母もまた、新型コロナウイルスの濃厚接触者として隔離されました。
ここには詳しく書きませんでしたが、ショートステイ先で軽い発熱があり、病院をたらい回しにされた経験もあります(すぐに熱は下がり、NEAR方式のPCR検査でも陰性)。
老人介護のショートステイ施設では、出入りも激しいので、陽性だったお年寄りが、どこで罹ったのか全く分からなかったそうです。
このように、新型コロナウイルスが問題になると、家族と分断されてしまい、相続対策など不可能になってしまいます。
両親の経験を通じて、父親の介護問題も取り上げております。是非、父親編もご覧くださいませ。
新型コロナウイルスだけが「敵」ではない
母は、2020年11月の入院で大事には至らなかったのですが、のちの状態につながる、決定的なダメージを受けました。
一つは、足腰が大変弱ってしまったこと。そしてもう一つは、認知症が少し進んだことでした。
同じ高齢者でも、父の場合は認知症の進みは現在もとても遅いのですが、足腰の弱さから施設への入所が早まった点では共通しています。母の場合は、入院によって足腰の問題と認知症の問題両方が一気に進んでしまったように思います。
何よりも心しなければならないのは、高齢者にとって、新型コロナウイルスだけが「敵」ではない、という点です。
母の場合、直接的には家で転倒したことが、その後の運命を決定づけました。
高齢者が坂を転げ落ちるように衰えてしまうことがありますが、新型コロナウイルスよりもむしろ他の原因でそうなってしまうことが多い上に、今は新型コロナウイルスのせいで、家族が分断されてしまうことがさらに問題を大きくしているように思います。
相続対策は、施設に入る前が間違いなくタイムリミット
私の母は、半年間に2度の入院によって完全に足腰が弱り、認知症が進みました。そして、運よく特養老人ホームに入所できましたが、2021年10月現在、家族の面談ですら中々困難な状況です。
2021年現在、高齢者の病院・施設入居後は、相続対策はほぼ不可能に近い状態です。今後、たとえ施設に自由に出入りできるようになったとしても、そこまでに認知症が進んでしまえば、遺言書その他の相続対策など全く不可能になっていることも少なくないでしょう。
相続対策については、ご高齢になってきたら、本当に元気なうちに、少なくともせめて病院や施設に入る前までに終わらせるのが鉄則である、と痛感しました。新型コロナウイルスは、今回私たちにそのことを本当に強く思い知らせてくれました。
今回、新型コロナウイルスで面会すらできない状態になりましたが、それ以前に、病院や施設に入所することで、認知症が加速するということも視野に入れなければならない、ということを、私自身、家族の経験を通じてつくづく感じました。
こんなコロナ禍の世界では、だからこそ、今、できる相続対策はやっておくのが絶対必要だと思います。
- 最後に一言
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今回は、私の母についての体験談をお話いたしました。
ご高齢の方々にも申し上げたいのは、遺言書を書こうと思っていたけど書けなくなってしまった、ということは、さらに年齢が上がれば上がるほど、起きやすくなっていきます。
遺言書その他の相続対策は、今、できるうちに、計画的に行うことが、何よりも大切であると本当に思います。ここにお話しした内容は、ご高齢の親御様がおられる、どこのご家庭でも起きている現実と、さほど変わらないと思います。
ご高齢のご家族がおられる方々のご参考になれば幸いです。筆者・小川博志