相続相談事例集

相続相談事例

相続と訴訟その③~遺産分割協議と所有権確認訴訟

Aさんのお父様でいらっしゃるA’さんは、その伯父さんにあたるBさんから、「この家をやる」と言われてBさん所有の家を頂いたものの、移転登記をせず、現在に至るまでそのまま数十年住み続けていたところ、Bさん、A’さんと亡くなり、相続人であるAさんは、相続登記をしたいとのご希望で、当事務所にご相談に来られました。

ところが、相続人を調べてみると、約30人もの法定相続人がいることが分かりました。Bさんには奥さんがおられましたがお子さんはおられず、Bさんが亡くなった当時から民法改正前までに起こった相続に関しては、旧条文が適用され、際限なく代襲相続が認められており、またBさんの後でBさんの奥さんが亡くなったこともあって、相続に次ぐ相続によって、相続人の数が膨れ上がる結果となってしまったからです。

貝塚尚子代表は、まず相続人を確定し、連絡を取りました。相続人の中には、ほとんど行き来のなかった親族、または、全く存在すら知らなかった親族という方も多く、その方々は大変驚かれ、当事務所までご確認に来られた方々もおられました。そうした方々の中には、相続放棄の申述をされた方々もおられました。

そうした相続放棄の結果、20人以上の相続人の方々が残り、居場所が不明で連絡が取れない方も出てきましたが、ほぼ2年近くの期間を経て、何とか無事に連絡が取れ、遺産分割協議に応じていただけました。

しかし、その相続人の中に、「それはAさん一家の問題であり、私らはAさんとは苗字も違う。だからうちは、この相続には全く関係がない。この相続に関しては、そちらで全部処理しろ」と、遺産分割には反対はしないものの、遺産分割協議書に署名や捺印をすることについてはご協力を全く拒むCさんが出てきました。

貝塚尚子代表とAさんは、Cさんに対して、Cさんが相続人であること、Cさんのご協力がいただけなければ、相続登記ができないことを何度も説明して、何度もご協力をお願いしましたが、「うちは関係ないはずだ」と拒否され続けました。

このままでは、Aさんは全く相続登記ができません。かといって、相続登記をしないまま放っておけば、今後の相続登記は困難を極めるものになることは、誰の目にも明らかです。

貝塚尚子代表は、遺産分割協議書からCさんが省かれていても、何とか相続登記をする方法はないかを考え、法務局の登記に関する先例を調べました。
すると、

「遺産分割協議は成立したが、相続人のうちの一部の者が遺産分割協議への押印を拒んでいる場合、右遺産分割により特定の不動産を単独で相続することとなった者は、押印を拒んでいる者に対する所有権確認訴訟の勝訴判決及び当該遺産分割協議書(他の相続人らの印鑑証明書付き)を添付し、単独で遺産分割による相続の登記を申請することができる」(平成四年七月二十九日東照第一八二六号東京弁護士会会長照会、平成四年十一月四日付け法務省民三第六二八四号民事局第三課長回答)

というものを見つけました。

そこで、Aさんは、Cさんに対する所有権確認訴訟を提起することにしました。

訴訟の対象である不動産持分権は、価格がぎりぎり140万円以下となったため、貝塚尚子代表と小川勝久顧問が訴訟代理を受任し、簡易裁判所に提起しました。
多分出て来ないのではないかと思われたCさんは、意外にも出廷し、「何で訴訟までしないといけないのかが分からない」と感情をあらわにする場面もありましたが、Cさんに対して裁判所からもきつく釈明がなされ、Aさんの主張は全面的に認め、即日結審し、遺産分割協議の成立と、それによるAさんの当該不動産の相続したことを判決理由とする所有権確認判決が下されました。

Aさんの相続登記は、その後判決と遺産分割の同意書をもって、やっと無事終えることができました


※コメント
今回の場合、何世代にもわたって相続放棄を放っておいたケースの中でも、かなり特殊なケースという事が出来るでしょう。
ただ、相続登記を放っておいた場合、このように訴訟に至るケースも後々出てくることも気を付けておかなければなりません。
本件の場合、法務局の登記先例と判例を使い、事なきを得ましたが、相続登記は、やはり相続発生直後に、面倒でも行う事をお勧めします。世代が進めば、間違いなく後々紛糾するからです。